設立趣意書

江戸川区伝統工芸会 設立趣意書(全文・原文のまま)

江戸川区伝統工芸会を創るに付いて日本には四季がある。

優れた伝統工芸は種々ある。

古くから伝承され今日に生きている優れたものがこの江戸川にも数多くある。

その伝統を守るには優れた「技」を守ると共に生きるための努力が必要である。

このことを除いては伝統守れるものでは無い。

現代に生きることは、新しいものへの変質ではない。

優れた「技」の上に現代を合わせていくことこそ伝承され、守ることができるものである。

近現代の波の中で消えようとする現代だとしたら、技術者は自己をより高めると共に近代化の本質を見極めて波を乗り越えることが必要で、社会の大きな動きにも留意する必要もあるであろう。又同時に伝統工芸の現代の置かれた実態を広く世に訴え、他人に理解を得てゆく必要もあるのは当然である。

伝統工芸とは現代日本文化の育ての親の一つであると考えて間違いない。だから、伝統工芸を守ると云うことは吾々技術者のみでなく文化を守ると云う広い国民的な課題の一つであると考えてよいのである。そのため、世論を高め歴史的な文化を守ると云う考え方で、行政も理解を深め積極的に取り組む責任があると云って間違いないのである。

さて、技術者はものを作る事が中心であり、喜びでもある。そしてその作ったものが生きがいなのである。又、そのことが使命なのである。

技術者は又、常に研究し、勉強し、自らを高めなければならない使命を持っているのである。だが勉強には色々なやり方がある。又、それぞれが行ってもいる。ここでもしも同じ伝統工芸に携わる技術者の技・経験・考え方・作品・等から共通するものを学び得られるとしたら、それは大きな影響を与えられることは云うまでもない。又このように共に学ぶことに付いては、その優れた有り方として先人が皆証明しているところでもある。そして本当の技術者ならばだれしも望んでいることが正しいものである。

伝統工芸とは古くから続いていると共に今日に生きている工芸である。ひとはその時代時代に生活を築いてきている。だから変わり、又新しくもなり、新しいものをその時代時代に生み出している。そして今日の吾々に受け継がれているのである。だが、工芸と云われ、人が直接その手で作り出すものの中で特に優れたものの技術は現代にまで生き続けているが、又その時代時代で技術を除いて新しい物へと変わってきていることも事実である。

ものを作ると云う技は人がやることであって、しかも何世代も苦しさ、楽しさを乗り越えて残っているとしたらそれは尊いものであるし、貴重なものなのである。それゆえに又後世に残す必要がある。そしてその任を吾々技術者は背負っているもであるし、その一人なのです。

吾々は自分の置かれた立場を史実に基づいて正しく知ることが必要である。

歴史は正しく知っておき、俗説は余り考えないことであろう。吾々の祖先がそれぞれの時代に、どのように作り上げ、どう学んだか等を今日的な意義の中で知ることである。そしてその時代時代での苦労を知り得れば又新しいものへと意欲を燃やすとなるであろうし、これから進むべき道もより明らかになり有意義となることは云うまでもあるまい。

しかし乍ら吾々個々は弱いものである。日常の仕事に、又生活に追われ、なかなか勉強はできない。そこでもしも同じ伝統工芸に携わる技術者が同じ日常で一堂に会い、話し合い、勉強することができたとしたらそれは最も求められた集まりとなることは云うまでもない。

又真面目な総ての技術者ならば誰しもの望むことと考えて間違いはない。世間には伝統を守ると云う言葉は多く聞くことができるが、そのための実践は少ないのである。だから今、一堂に会って話し合いをすることは当を得たものであるし、この江戸川区で最も必要なことと考えるべきなのである。そしてその集まりが実践を進める母体になることは云うまでもない。又そのために作るのである。吾々技術者は技術者のみの立場だけではない。作り上げた作品を通じて多くの人々と結びついていることをわすれてはならない。そして、良いものを作り上げる努力はより結びつきを強めることになるのである。

それしかないのである。又逆に云えば多くの世人から吾々は作品を通じて、ためされているのであると云うことを知るべきなのである。

では会を造るとする。その会は民主的でなくてはならない。会員は総て平等であって、差別はあり得ない。会は一致したことのみを実行し、一致しないものは実行しないと云う原則を守ることである。会は会員のための会なのである。そして、組織としての事業を行わない、その成果を通じて社会に返して行くことにし、その上で又世の人々に伝統を守ることに協力を願うのである。

吾々は技術者である。実践をして行く会を求めているのである。そう云う会を作るのである。だがこの会には技術者ならば誰でも入会できるものではない。伝統工芸に携わることは当然であるが、技術を高める、感性を高める、伝統を守る、という考えを守った真の技術者でなくてはならない。入会希望者は会で討議し、決めることとし、その資格を保証することにするのである。又会員ができるだけ直接会の運営に参加すると云う、会員が責任を持った会にして行くことである。そのために各自の人権を認め合いながら自由な建設的な意見を出し合うことのできる会を作ることであろう。

処でこの江戸川区内には伝統工芸に携わる技術者は少ないのではないかと思えるし、ましてや、より自己を高め、伝統工芸を守ろうとする技術者は又、少なくなっていると考えるのである。しかしそれ等の人々を掘起してゆくことも必要なことであって順次会を大きくし、伝統を守る、優れた技術者を守る、と云う事をより力強くして行くことに合い通ずることであると云う点を考えて、共に歩む技術者を迎え入れることである。これも吾々の目的の一つなのである。

会にとって重要なことは目的が一致することである。目的で協力することなのである。そして、その時々の力量に合った会の運動が一番必要なのである。将来に向かっての大きな目標も持ち又現実に合った組織造りが考えられ運営されることが本来の姿なのである。会とは目的が一致しておれば運営の有り方は何時でも改善されるであろうし、又そう信じて良いものなのである。それは会員の会であって、会員が決めていくからである。

吾々技術者は仕事に誇りを持っている。又持つことが当然なのである。しかし会は共同体である。個人の自由は守らねばならない仲間であり、友であるとしての立場で一致した事は守り、共に実践する義務があり協力し合う必要があることを確認し合わねばならないのである。この考え方は最低の原則として要求されるであろう。又、会は会と云う名で個人の名誉を犯してはならない。個人は個人であると云う当然の有り方を再度認め合うことである。

吾々は伝統工芸を守ると云う大きな目的を持ち、そのために自己をより高め、伝統の意義を広く理解してもらい、今日の伝統工芸の置かれた立場をより発展させる方向へ努力することであろう。

吾々は日本の伝統文化を守る旗手の一人なのである。そして良いものを作り出すことが重要なのである。

以上

1983年9月10日